
母が要支援2の判定を受けたのは、認知症の初期症状が少しずつ見え始めた頃でした。
介護支援サービスとして、週2回のデイサービスを利用することになりましたが、当時の私は「デイサービスとはどんなところか?」という基本的な知識すらほとんどありませんでした。
在宅介護支援センターに相談して、いくつかの施設を紹介していただきました。3カ所ほど候補がありましたが、私はその施設のホームページを見て、雰囲気や活動内容などから1カ所を選びました。
同僚の中には、実際に見学に行って選んだという人もいましたが、「見てもよく分からないかもしれない」と思い、私は見学に行きませんでした。
母は元々とても社交的で、誰とでもすぐに打ち解けるタイプでした。だからこそ「きっとすぐ慣れて、楽しんでくれるだろう」と、私はどこかで安心していたのかもしれません。
でも、初めての施設での時間は、母にとって予想以上に緊張をともなうものだったようです。デイサービスに通い始めてすぐ、母がふと漏らしたひと言。
「もう行きたくない…」
私はその言葉に驚き、すぐに施設の方に様子を尋ねましたが、「特に変わった様子はありませんでしたよ」とのこと。
それ以上の理由は分からず、結局そのまま通所を続けることになりました。実際、母が「行きたくない」と言ったのはその一度だけだったからです。
母はその後も週に2回、何事もなかったかのように通っていました。
でも、どこか少しずつ変わっていく母の様子に、私は気づいていました。以前よりも表情が曇りがちになり、話しかけても返事が遅くなることがありました。
もしかしたら、あの時の「もう行きたくない」というひと言に、もっと耳を傾けるべきだったのかもしれません。本人の中にあった不安や違和感を、私は見過ごしてしまったのでは…と、今でも悔やまれるのです。
現在、私は地域のボランティア活動に参加しています。
週に一度、金曜日に地域サロンでお茶を飲みながら、クイズや手芸などを楽しむ時間があります。そこで高齢者の方々が、安心して笑い合い、穏やかなひとときを過ごしている姿を見るたびに、思うのです。
「母にも、こういう場所を知っていればよかった…」
私と一緒に、こうした地域の場を体験することができていたら。母はきっと、もっと安心して介護のスタートを迎えることができたのではないか、と。
当時の私は、地域にこんなに多くのサポートの場があることを知りませんでした。相談できる相手も限られていて、「とにかく自分でなんとかしなきゃ」と思い込んでいました。
でも、本当は一人で抱え込まず、もっと地域とつながって、頼れる人や場所を見つけておくことが必要だったのです。
本人の気持ちに寄り添い、まずは一緒に“安心できる場所”を体験する――それが、介護のスタートラインに立つうえで、とても大切なことだったのだと、今になって気づかされます。
「もう行きたくない」と言った母のひと言。
あのとき私は、もっと寄り添えたのではないか。
もっと“地域”に目を向けていたら、もっと“本人の気持ち”を大事にしていたら――
介護のスタートは、家族にとっても、本人にとっても大きな転機です。
だからこそ、情報を集め、地域とつながり、気持ちを共有できる場に出会ってほしい。
私の経験が、これから介護を始める誰かのヒントになりますように。
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